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名古屋地方裁判所一宮支部 平成元年(ワ)51号 判決

原告

星岡祥一

被告

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告は、原告に対し金一、二七四、七二七円及びこれに対する昭和六一年四月一五日から支払済まで年五分の割合により金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決及び仮執行免脱の宣言。

第二請求の原因(被告の主張に対する答弁を含む。)

一  事故

原告は、次の交通事故により後記の損害を受けた。

(一)  日時 昭和六一年四月一四日午前一〇時一〇分頃

(二)  場所 江南市大字小折三五二六番地先道路上交差点

(三)  加害車 原動機付自転車

右運転者 訴外熊谷和夫

(四)  被害車 普通乗用自動車

右運転者 原告

(五)  態様 被害車が交差点へ進入したのに対し交差道路を進入した加害車が被害車の前部へ衝突。

二  責任原因

(一)  国家賠償法上の責任

被告は、公権力の公使に当たる公務員たる右訴外人が職務執行中に右の事故を起したので、国家賠償法第一条による責任を負う。

(二)  使用者責任(予備的主張)

被告は、自己の事業のため右訴外人を雇用し、同人が被告の業務の執行として加害車を運転中本件事故を発生させたので、民法第七一五条による責任を負う。

三  損害

原告は、右の事故により昭和六一年五月二七日運転免許停止三ケ月との行政処分を受け、このため左のとおりの損害を蒙つた。

即ち、原告は株式会社星岡工業所を経営し、同会社は原告の個人会社であつて、右免許停止処分のため原告は営業損害とし金一、九八六、七二六円を蒙り、また右停止期間中のタクシー代一三七、八二〇円の支払いを余儀なくされ、合計金二、一二四、五四六円の損害を受けた。

これに対し右事故における過失割合は原告四割、右訴外人六割であるから、被告の賠償すべき損害額は金一、二七四、七二七円となる。

四  被告の主張事実を争う。なお本件損害は示談の対象外である。

五  よつて被告に対し右金員及びこれに対する事故の翌日である昭和六一年四月一五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求の原因に対する答弁(被告の主張を含む)

一  第一項の事実を認める。但し後記のとおり損害との因果関係はない。

二  第二項の事実を争う。但し被告が民法第七一五条による使用者責任を負うことを認める。なお右訴外人の運転行為は公権力の行使に当らないから、被告は国家賠償法による責任を負うことはない。

三  第三項の事実は不知。原告の主張する損害は、原告自身の所為を原因として生じたものであつて、被告側(訴外人)の過失とは無関係であつて、因果関係はない。

なお原、被告間には、昭和六一年一〇月二五日(運転免許停止期間経過後)示談が成立しており、原告は本件請求権を放棄している。

第四証拠

一  その提出、認否は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、引用する。

理由

一  請求の原因第一項の事実(因果関係の点を除く)、第二項のうち被告が民法第七一五条による使用者責任を負うことは、当事者間に争いがない。

二  ところで、本件において原告が右の交通事故による損害であるとして主張する内容は、右事故により原告が運転免許停止処分を受けたため営業上の損害を蒙つたというのである。

しかるに、運転免許停止処分は、法令の定めに該当する事実が発生した場合に所定の手続を経てなされる行政処分であつて、その該当事実が交通事故を起したことにある場合には、当該事故と無関係に課されるものでないことは明らかであるが、道路交通法(以下道交法という)の規定によれば、運転免許停止処分は、免許を受けた者が道交法第一〇三条第二項各号所定の事由に該当することを以てなされるのであり、当該交通事故が生じたこと自体を以てなされるのではない。成立(原本の存在、成立を含む)につき争いのない甲第二号証の一によれば、原告が右の免許停止の処分を受けた理由は、昭和六一年四月一四日徐行場所違反という道交法違反行為があり、事故内容として重傷、違反点数八点、前歴一回という各事実を以てなされていることが認められる。右の処分理由たる事実と前示法条の規定とを総合すれば、重傷という交通事故による結果が処分理由の一要素とされていることは明らかであるが、その処分の理由は原告の道交法違反の事実並びに右の結果と因果関係のある原告の所為を対象とし判定せられたのであつて、受傷者の過失等を原告の過失と同視してこれを処分の理由とするものではない。(これを参考とするのであれば、原告の有利な事情として斟酌せられるものであり、もし被害者の過失等をもすべて包含して原告の責任としてこれを問うような処分がなされたのであれば、それは当該処分の効力を争われることが妥当であろう。)いずれにせよ、原告が請求の原因として主張する交通事故における被告側(訴外熊谷)の過失は、原告の受けた免許停止処分を原因とする損害との因果関係が存しないことは、明らかである。

三  そうすると、原告の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく、理由がないから失当としこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

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